解散後、次期総理就任が有力視される自民党・安倍総裁の経済政策が話題になっている。ここでその主な3つ、金融緩和、財政出動、インフレターゲットについて平均レベルの頭脳で簡単に考察してみた。


1.金融緩和

一般的な金融緩和のねらいは、日銀が金融機関の債権(主に国債)を買い上げる→金融機関の資金を増やす→金利が下がる→企業が借金し易くなる→投資が増え経済成長する、というもの。しかし、現在、名目金利はすでにほぼゼロの状態だ。金利がゼロ以下になることはないので、金融機関の資金をいくら増やしても金利は下がらず、緩和前と比べて企業が借金し易くなることはない。いわゆる流動性の罠状態である。
 

2.財政出動

一般的な財政出動のねらいは、政府が負債を負ってまで財を買う(公共事業をする)→社会全体の需要に波及し、景気が良くなる、というもの。しかし、負債を負ってまで財を買うということは貨幣に対する需要を減少させることなので、金融緩和とは逆に金利は上がってしまう。これによって企業が借金しにくくなり、経済成長の効果は減衰する。ただ、1.で見たように金利がゼロに貼り付いた流動性の罠の状態では金利が上昇することはない。つまり、金利上昇による経済成長効果の減衰はないので非常に効果的な政策になりうる。こう書くと公共事業は良い選択だと思えるかもしれないが、ここで現在の政府の財政状況が問題になる。巨額の赤字がある中で(楽観的な見通しでも2017年以降国債の国内消化率は下がっていく)、積極的な財政出動、国債の大増発を行うと、財政の信認は失われ、長期金利が上昇し、国債の償還が追いつかなくなり、デフォルトの危機に陥る可能性がある。しかもギリシャの30倍の経済規模を持つ日本を救済できる国はない。
 

3.インフレターゲット

デフレ解消のためのインフレターゲットのねらいは、日銀が「インフレ率が○%を超えてもさらに金融緩和する。」と宣言する→市場が将来のインフレの持続(貨幣価値の低下、財価値の上昇)を予想する→現在の需要が増える、というもの。さらに、インフレになると予想されることは、将来の負債が貨幣価値の低下により実質減少すると予想されること。つまり金融機関の実質貸出金利が減少するので流動性の罠状態においても1.の効果が出る。しかし、ここで日銀の独立性の本来目的を考慮しなければならない。政治家は基本的にインフレを好むインフレバイアスを持つ。なぜなら短期的にインフレは、景気を刺激し、失業率を下げるので選挙に有利になるからだ。このため日銀に対して常に金融緩和を求めがちになる。しかし長期的なインフレは貨幣の資産への流入を促進しバブルを生む。これがまさに80年代後半に日本が経験したことだ。これを防ぎ物価を安定させるために日銀は政治家の要求に左右されない独立性を与えられているのである。日銀の金融政策による本来目的はインフレを抑制することなのだ。このため市場には、いくら日銀がそれを持続させると宣言していたとしても、実際にインフレになると抑制する方向に動くのではないか、というデフレバイアスがかかりインフレへの期待は減衰する。つまりインフレターゲットは効果はあるが限定的である。
 

まとめ

2.は効果はあるだろうが果たして破綻までにどれだけの国債増発が許されるのだろうか。その見積りは非常に困難である。
効果の減衰する3.(その波及による1.)で成果を上げようとすれば日銀の独立性を超えた緩和が必要になるだろう。政府の命令により日銀が緩和を行うようになるとデフレバイアスは薄まりインフレになるかもしれない。しかしその場合、インフレは良い頃合(安倍氏によると2%)で止まるのだろうか。インフレが止まらず資産バブルが起これば利率の低い国債は売れなくなるので長期金利が上昇する。結局こちらも財政破綻の懸念があるのだ。
どうやらこれらの政策において安倍氏が取れるのは2つに1つのようだ。1.効果はあまりないが常識的な範囲で行いリスクを避ける。2.高い効果があるかもしれないが、財政破綻のリスクもあるギャンブルをする。